先日、JR東海のプレスリリースにて、一部の新幹線回数券について廃止が発表された。
《JR東海プレスリリース》
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000041022.pdf
廃止対象区間として、特に利用が多いであろう東京ー名古屋・新大阪も含まれており、世間に衝撃が広がった。
金券ショップにとって、売れ筋商品である新幹線回数券が廃止されることの影響は大きいだろう。
ここでは、今の時期に新幹線回数券の廃止に踏み切った理由、及び今後の動きについて考察したい。
1.今の時期に新幹線回数券の廃止に踏み切った理由
- ①コロナ禍で鉄道会社の経営が厳しくなった
- ②そもそも回数券の利用者が減少した
- ③金券ショップ対策
- ④ネット予約が主流になった
- ⑤(鉄道会社としては)紙のきっぷ極力を減らしていきたい
- ⑥運賃計算の特例である「特定都区市内」制度をなくしていき、収益の改善を図りたい
①コロナ禍で鉄道会社の経営が厳しくなった
回数券は当然ながら、普通運賃+料金で購入した場合に比べて割安に設計されている。
現在の厳しい経営体制の中で、安売りしている場合ではないということだろう。
②そもそも回数券の利用者が減少した
コロナの影響で、利用客が大幅に減少した。
その中でも、特にビジネス需要がほとんど泡と化してしまった。
回数券の購入者としては、大口の需要が見込める法人などが想定されるが、そもそもの出張がなくなってしまったのだから、回数券の利用も大幅に減少しただろう。
③金券ショップ対策
②に関連して、回数券の購入者として、他には金券ショップが挙げられる。
彼らは、JRの窓口(又は券売機)で大量に回数券を仕入れて、これを一般客に対して普通運賃+料金よりも安い値段で販売し、その利ザヤで稼いでいる。
(中には、一般客が購入した回数券を買い取って仕入れるケースも散見される。)
はっきりとした統計は出ていないが、回数券購入者の大半が金券ショップ関連とも言われている。
また、このスキームを利用したクレジットカードの現金化も行われているとも言われており、JRとしても看過できない問題だということだろう。
④ネット予約が主流になった
東海道・山陽新幹線では「エクスプレス予約」でチケットを購入する利用客が増えてきている。
紙の切符を発行することなく、ICカードによって乗車できるサービスも普及している。
以前は、年会費ありの会員制サービスしかなかったが、今では年会費無料のサービスもあり、門戸が広がった。
しかも、回数券1枚当たりの金額よりも安く手配できることもあり、回数券よりも便利になったという一面もある。
⑤(鉄道会社としては)紙のきっぷを極力減らしていきたい
現在、在来線ではSuica、PASMO、ICOCA、TOICAといった交通系ICカードによる乗車が主流になっている。
これを新幹線にも広げていこうという取り組みの一環でもある。
なぜ、鉄道会社はICカードの普及に積極的なのか。
それは、(手間や経費のかかる)紙のきっぷをなくしていきたいという思惑があるから。
一つ、自動改札を例にとって説明すると、紙のきっぷを前提にした自動改札はメンテナンスコストが高く、手間もコストもかからないIC専用の改札機も存在するほどである。
特に、JR東日本はかなり積極的であり、IC専用の改札レーンが過半数という駅も珍しくない。
東海道・山陽新幹線も、EX-ICをはじめとするIC利用を推進しており、IC利用前提の割引商品も数多く販売している。
⑥運賃計算の特例である「特定都区市内」制度をなくし、収益の改善を図りたい
<参考HP>
運賃計算の特例制度である。目的は大都市の駅での出札業務の簡素化である。
これは、高度経済成長期にできた制度であり、もちろん自動改札機などなかった時代の産物である。
とはいえ、今の時代においても、利用客・鉄道会社(特に改札係員)にこの恩恵が及んでいることは否定できない。
しかし、鉄道会社にとっては、収益面から改善したい項目の一つである。
例えば、東海道新幹線[新大阪→東京]を紙のきっぷで利用する場合、
・乗車券;大阪(市内)→東京(都区内)
となり、
大阪市内のJRの駅から、東京都区内のJRの駅までこのきっぷのみで乗車することができる。
(阪和線杉本町駅から総武線小岩駅まで、このきっぷで乗車可能)
東海道新幹線はJR東海の管轄であるが、
上記のケースのように、大阪市内のJRはJR西日本の管轄であり、
東京都区内はJR東日本の管轄なので、
売上のうち、一部が自動的に他社(東・西)に流れてしまう。
これは、東海にとっては都合が悪い。
確かに、実際に西日本管内の駅から乗車し、東日本管内の駅で下車したということであれば、まだ納得できる。
しかし、新大阪駅で改札に入り、東京駅で改札を出た場合(在来線を一切利用しない場合)はどうだろうか。
純粋に東海しか利用していないにもかかわらず、一部が東と西に売上の一部が流れるという事実は変わらない。
東海にとっては、払いたくもない売上の一部を東・西に払わなくてはならないのである。
更に、東海道新幹線のきっぷを他社が販売した場合には、東海はその売上の一部を販売した鉄道会社(東や西)に対し、販売手数料として支払わなくてはならない。
これは、普通のきっぷだけでなく、新幹線回数券であっても同様である。
東海としては、これら売上の一部に関して、なるべく他社に流したくないという動機がある。
2.今後の動き
- ①金券ショップの淘汰
- ②エクスプレス予約の(法人)契約の増加
①金券ショップの淘汰
売れ筋商品の東京ー名古屋・新大阪が塞がれるため、金券ショップにとっての打撃は大きいだろう。
②エクスプレス予約の(法人)契約の増加
ビジネス利用について従来は、
・法人で回数券を購入
・利用者各自が金券ショップで購入
というのが大多数だったと思われる。
これが、新幹線回数券の廃止によって、できなくなる。
そこで、エクスプレス予約の法人契約が増加することが予想される。
(もしくは、個人でエクスプレス予約を契約するケースも増えるだろう。)
いずれにしても、JRにしてみれば願ったりかなったりである。
あとは、利用客がこの動きに慣れるかどうかである。
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